第3章 〜脂肪抑制法について〜


 通常の脂肪抑制法は大別して、

 ・脂肪と水との共鳴周波数の差を利用する方法(fat sat, CHESS, etc.)
 ・T1緩和時間の差を利用する方法(STIR)
 ・位相差を利用する方法(Dixon, etc.)
 ・その他
 などがある。

 当院では周波数差を利用する SPIR(spectral presaturation with IR) を使用している。これはあらかじめ脂肪を選択的に 180度倒す IR法の一種であり、その意味では STIR にも似ているが、脂肪のプロトンのみに 180 度パルスを加える点で STIR とは異なる。1.5T の静磁場では TI=150msec に設定している。

 この方法は CHESS と同じく磁場均一性の高い機器でしか使えないが、SE 法、FE 法、FSE 法、EPI 法などほとんどの撮像法と組み合わせて使用できるのが最大のメリットである。ただし、副作用としては脂肪抑制の過程が必要なため TR が TI の分だけ(といっても 150msec 程度)伸びる。FOV が 30cm を超えない範囲(当院の機器の場合)では安定した脂肪抑制効果が得られるが、これより大きな撮像領域に使用すると特有の信号ムラが生じる。磁場均一性の優れた機器(Philips、Siemens)では非常に有効であるが、国内の多くの施設で使用されている磁場均一性の悪い機器(国産機や某米国メーカー製)ではより小さな領域でさえムラが生じて使い物にならないためにほとんど評価されていない。

 この写真は仙椎の転移の症例。左の FSE-T2WI 像に比べ、右の FSE-T2WI with SPIR 像では骨髄の脂肪の信号が低下するために仙椎の転移(青矢印)がより明瞭である。第一腰椎にある血管腫(黄矢印)は脂肪抑制により信号は著しく低下しているため、血管腫の確定診断も容易である。

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