◆読書
「公主帰還」(井上祐美子;講談社文庫)
井上さんの新刊と思って中身を見ずに買った短編集ですが、最初の短編は「潔癖」。しまった、これは以前に読んだことがあるゾ。たぶん、「異色中国短編傑作大全」でだったと思います。後悔チャチャチャ。
しかし、残り6編は未読でしたのでほっとしました。幽霊となり自分を殺した男に憑いて殺す「白夫人」がなかなかの読み応え。この夫人は砒素を盛った男をちっとも怨んでいず(そのことを知っており)、幽霊になってもただそばにいたいだけなのですが、殺した方の男はたまりませんよね。ぞぞ。
「公主帰還」と「僭称」は宋の高宗の時代(金にこてんぱんにやられて南に逃げたあの時代ですな)の話です。鬱屈した高宗の描写がイイですね。宋という国はどうもすかん(どっちかというと海南王の時代を除いてという条件がつきますが、金の方が好きです)。
「芙蓉怨」は趙匡胤と趙匡義の兄弟の間に挟まれて悲劇的結末をたどる美人の話。「贋作」は痛快ピカレスクロマン。「涅(すみ)」は顔面に刺青のある宋の将軍狄青を描いています。こんな骨太の男はしぶくてかっこいいですワ。見かけ倒しのライオンハートくんとはえらい違いですな。