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◆読書
「成人病の真実」(近藤誠;文春文庫)の続き
第四章は内科医のハナシではなく、脳外科医が血祭りにあげられています。
我々放射線科医も脳ドックに携わることがあるので、責任の一端をかついでいるのですが、脳ドックでMRIを行うと無症候性の脳梗塞や未破裂の脳動脈瘤がいくつも見つかります。
20年近く前に京都にある某国立大学にMRIが入ったときに、梗塞の診断基準というものがないわけですからCTで梗塞と診断した患者を撮ってT2強調画像で高信号の部分が梗塞らしいと担当していた某医師が判断しました。ところが、あまりに病巣が見つかるので最初は嬉しくて(MRIってのはすごい!こんなに感度がいいなんて!)、みんな梗塞と診断していたのですが、自分の脳にもこの「病巣」があることを知り、いきなり態度がコロリと変わり、梗塞という診断を乱発しなくなったのはまた別のハナシです。こうした梗塞でないものを除いても無症状の人にも結構梗塞は見つかります。梗塞なんて5分以上血流が絶たれるとできうるわけですし、症状の出ない部位にできても普通は気がつきません。こんな無症候性梗塞を見つけて治療してもできた梗塞は治りませんし、いつできるかの予測は困難です。血圧の高い人やコレステロールの高い人に投薬する(それも平均寿命を伸ばすことになるかは別問題ですが)くらいでしょうが、それならMRIなんか撮らないでも血圧やコレステロールを測るだけですみますね。
もっと大きな問題は脳動脈瘤です。以前は脳動脈瘤を放置して破裂する率は年に1〜2%と言われており、脳外科医も「患者」も信じていました。この率がかなり高いので未破裂動脈瘤が見つかったほとんどの人が手術を薦められましたが、最近海外の複数の施設から出された論文(New
England Journal of Medicine;1998年)によると破裂率は約 0.05%ということがわかりました。これで手術する人は激減しました。剖検では5%近くの人に脳動脈瘤が見つかっていたそうで、もし破裂率が1〜2%ならこのうち半数くらいが発症してもよいはずですよね。なんらかの意図で高く見積もられていたわけでしょうか(それにしても2桁も違うとは)。健康なのに高い金を払ってMRIを撮り病気モドキが見つかって脅かされて手術されて半身不随になった方の話はよく聞きますが、まことにお気の毒です。
面白いのが脳外科医の言語感覚と題した章で、手術評価を4段階で自己評価するのが普通です。その4段階とは悪いほうから「死亡」・「fair」・「good」・「excellent」で、「死亡」が「手術中に死んじゃった」、「excellent」は「すばらしい」というそのままの意味であるのはいいのですが、「good」が「麻痺などの機能障害が出たが、自力生活が可能」、「fair」が「機能障害のために自力生活が不可能な状態」ということです。どこが good ですか。fair
はまあまあ(大阪人のボチボチは実は good〜excellent)という意味だと思っていた方は廃人まで含むと知って驚かれるかもしれません。一部の脳外科医がよく使う「死ななかっただけマシ」と思えということですね。
通常の動脈瘤破裂の症例なら、機能障害がくも膜下出血によるものを含むのですが、脳ドックで見つかった無症候性(未破裂)の動脈瘤が対象ですから、この機能障害は
100%手術の副作用ということです。で、脳外科医が絶讚する手術成績(信州大学脳神経外科)というのが、「fair」が
5.5%、「good」が 9.7%なんです。うまい施設でこの程度。山ほどあるそれ以下の施設ではいったい・・・
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