医療保険の話(メディカル憩室その6)

 

 


 状態の悪い患者の場合、過剰な医療をしなくてはならないときもあります。大学病院などはやりたい放題やっても研究のためと保険機構が支払ってくれたのですが、一般市中病院は許してもらえません。

 昔は患者が死んだ場合は「一般に考えると過剰だが、この症例の場合はむしろ不足していた」という判定が下されて大目に見てくれたものですが、最近は情け容赦なく保険の支払いを拒否してくれます。死ななくて助かった場合はなおさらです。

 支払い却下の場合を調べてみると、支払いを拒否して当然という場合もありますが、かなりの部分は主治医もしかたなく使っている薬剤や処置が過剰と判定されているのです。
 
現在の保険で認められている範囲というのは厚生省の意向を反映して、現行の医療レベルより1歩も2歩も遅れているレベルです。最先端からは何光年離れているでしょうか。裁判でよく「当時の医療レベル」を基準にして判決がなされますが、保険機構の認める範囲で診療を行った場合は「当時の医療レベル以下」になることが多いので、裁判に負けるかもしれませんね。

 医師もなにも使わなくてもいい場合に過剰の薬を投与するわけではありません。保険がおりない場合は、病院が自腹をきってその負担をかぶっているわけです。

 さて、ここ大津市では非常に過剰な診療と判定された場合は患者本人宛に

「あなたの受けた診療が過剰と判定されました。
病院に行けば事情を話せば、払い戻しが受けられる場合があります」


という通知を送るようにしたようです。払い戻しがされるべき状態というのは、請求ミスで「実際は行われていない診療行為(薬など含む)」の分が請求されている場合ですが、これは非常にまれです。実際のほとんどは「行われたがこれは過剰と考える。保険は支払わないので、病院が国や社会保険機構にかわって払うようにしなさい」と言われた場合であり、これは診療行為自体はすでに行われているのです。

 わかりにくいので例をあげますと、国民保険で被保険者当人の場合、診療行為分の金額の3割を本人が、7割が国民保険機構(つまり国)が払うわけですが、「この7割の分を国が払うのを拒否したから病院が負担しろ」と言われたということです。ここで本人が3割の分も病院に払い戻すと、病院が10割負担、つまり全額負担でもともとアカの他人であるこの人の診療を行ってあげたことになります。これでは病院はあっというまにつぶれますね。ここは痛み分けで3割は個人負担のままでお願いします(ほんとうは残りの7割の半分をもっていただきたいくらいなのですから)。すなわち払い戻しは(少なくともうちの病院は)行いません。

 厚生省の役人や保険審査委員の方が入院された場合は、どんなに重症であっても、お上の制定した「医療レベル以下」の診療を厳守しなくてはなりませんね。
あやまって「現在の医療水準に即した医療」をしてしまって、へたに助けるとあとでどんなしっぺ返しをくらうかもしれませんから。


 

 

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