◆はじめに
それは昨年の8月末のことでした。 寝る直前にコーヒーを飲んでしまったためか、いつもに増して鮮明な夢でした。唐突になんとキングギドラが攻めて来たのです。だがゴジラは来ない。それを見かねたモスラの幼虫が勇敢にもキングギドラの腹に噛みついたのです。何匹も。それを嫌がったギドラは自分の3つの首を120度ずらして配置し、回転させながらおのれの胴体目がけて火を噴いたのです。モスラの幼虫はなんとか助かったのですが、ギドラは120度の回転火焔放射によりおのれの胴体をまっぷたつに焼き切ってしまったのです。かくして地球はまた救われたのでした。が・・・
めざめた私は面白い夢だったなと思いながら病院に行くと、ある考えが浮びました。そうです、CTにも3つの管球をつければ120度の回転で360度データが得られるではないか! こうして考えついたのが以下の「tribeam CT」です。
◆作り方
従来のCTは回転するリングには1組の「管球−検出器」しかついていませんでした。そこでこれを3組に増やします。実際の検出器は千に近い数百チャンネルに及ぶ膨大な数の検出器からなっており、かなりの幅が必要ですが、リングの1/3ほどにはなんとかおさまるでしょう。冷却装置やパワーユニット・コントローラなどはリングを回転軸方向に伸ばしてそちらに配置する必要があるかもしれませんが。3組の「管球−検出器」はそれぞれ互い違いに配置します。さて、なぜ3組かというと、
■偶数ペアの場合は等間隔に配置すると、検出器が別の組の管球とすぐ近くに位置することになり、ノイズを拾いやすい。これはおそらく克服不可能であろうと思われる。
■奇数ペアの場合、5つ以上はコストの点でメリットが少ない。たとえば3つの場合と5つの場合とを比べると、1スライスの所要時間は0.1秒しか違いがない。この部分のコストはほぼ比例するため、コストパーフォマンスの点で3つがベストであると思われる。
リング以外の構造は従来とあまり変りません。3つの検出器から出力されるデータは、アレイプロセッサに入る前に一度それぞれバッファメモリで受けて順に送り込む必要があるでしょうし、ヘリカル時の補正方法も少し変更しなくてはいけませんが。
こうして、従来と同じ回転スピードで回すと仮定しても、360度データが実際は120度回転することで得られてしまいますので、1回転に0.9秒かかるシステムでは0.3秒、リングが重いことを考えてゆっくり回したとしても0.4秒で撮れるでしょう。ということは同じ時間で2.5〜3倍の範囲が撮れる、あるいは同じ時間で2.5倍〜3倍の薄さでスライスできることになります。
おこがましいですが、これを「0.3秒CTスキャナ」あるいはキングギドラ君に敬意を表して「tribeam CT」とと呼ばせていただきます。
◆メリット
もちろん検査が早く終ることが最大のメリットです。詳しく考えてみますと、1スライスが0.3秒で撮像できると次のような利点があげられます。
1肺:かなり細長い肺でも10秒以内に撮像が完了する。これはよほどの呼吸障害がない限り酸素吸入が不要であることを意味する。
2心:ECG 同期を行なえば、拡張期つまり心の「停止期」の間に撮像できるために、拍動によるアーチファクトが減少する。また、条件がよければ収縮期の撮像も可能。これらは冠動脈の描出に貢献する可能性が高い。
3肝など:dynamic scan のとき、スライス間の時間差が少なくなることから、離れた2点にある病巣の染まりのパターンなどがより正確に比較できる。
4頭部:意識障害などで体動の激しい患者でも motion artifact を受けにくい。
5四肢:(静脈が写ってくるまでの制限時間内に)動脈相が撮れる撮像範囲が従来の3倍になるため、今まで難しかった下腿の血管の評価がある程度可能である。
◆問題点
最大の問題は検出器が他の管球からの散乱線の影響を受ける点でしょう。そのほか、構造上の問題点として、
1.3組の管球の特性を電気的に合わせることが難しい。
2.リングが重くなり、耐久性などに問題が生じうる。
などが考える。
◆その他の利点
tribeam方式の最大のメリットはその高速性ですが、ほかにも利点があります。
1.管球に高性能のものを要求しない
最高級機に搭載する管球の連続照射時間の2/3の管球(中規模の heat unit)を使用しても、最高級機の2倍の範囲が撮像できる。これによりコストを下げられる。
2.故障に強い
3ペアあるということは、どれか2ペアに故障が生じてもハードウェア上であらかじめ残りの1ペアで撮像ができるようにしておけば(single
beam)、その日の検査はなんとか可能である。検査終了後に修理を行なえばよい。
3.管球寿命の延長
普段 single beam方式で常用すれば、管球寿命は見かけ上3倍となる。
◆まとめ
技術的には散乱線の問題がヤマですが、あると非常に助かります。イマトロンの値段が下がらない限り、こうした方式をどこかの企業が採用してくれないものでしょうか。以上の話がわかりにくければメールくださいね。さて、上の拙文を読んでもっといい方式があることに気付かれた方はおられますでしょうか。
そうです、次回は第4.5世代のスキャナ(1秒5スライス)の作り方を公表しますね。
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