医者は安月給(メディカル憩室その10)

 


 いやぁ、みなさん、相変わらず景気悪いですね。私もいつもながら給料安いですわ。週2回食べている 300円のうどんを週3回にすべきか検討中です。ま、公務員なので景気が良くなってもあまり変わらないのですが、もう少し余裕のある暮らしをしたいですね。

 日本では昭和 30〜40年代にほとんどの開業医が薬を公定価格の1割程度で仕入れて、バカスカ出しまくって儲けていたために、医者は高収入という「常識」ができあがってしまいました。
 現在は薬の仕入れ価格は公定価格の9割に達し、院内薬局では人件費も稼げなくなり、院外処方に切替えている診療所〜医院が多くなっています。
 薬で儲けられないので他の部分で儲けなくてはいけなくなったのです。高額な検査機器を持たない零細開業医(日本の開業医の大多数)は診察料で稼がなくてはいけませんが、診察料(再診)はなんと 590円です。ラーメンより安い金額で患者の診察をし、利幅のない薬を出していてどうして食っていけるでしょう。ただし、初診時には再診料でなく初診料がもらえますが、2500円ではいまどき散髪代にもなりません。初診患者は診察にいろいろと時間がかかりますから、時間単価を考えると決してトクにはなりません。

 少し大きい病院では高額な検査機器を持ち立派な入院設備もあるので、一見儲かりそうですが、高額な検査というのはあまり多くの人数をさばけない割にランニングコスト・メンテナンスに多くのお金(年間数百万円のことが多い)をとられます。入院設備を維持するのにも看護婦やパラメディカルの人員をたくさん雇ったりしないといけません。
 実際、
9割の公立病院は赤字です。残り1割が黒字ですが、補助金をもらっていたりして黒字に見せかけているところがほとんどで、残りの本当に黒字を出している病院も黒字の額はわずか数%のことが多く、いつ赤字に転落するかわからない状態です。なにしろ、他の業務では人件費が2割を超すと経営改善を促されるらしいですが、医療は人件費が4〜6割を占める特殊業務であるからです。

 さて、クイズです。私は来月40歳。市立病院の放射線科部長ですが、いくらもらっているでしょう。
 ま、考える気もおきないと思いますので、平成11年2月分の給料明細を紹介します。

 

本給

482100

調整手当

50910

扶養手当

27000

住居手当

5500

通勤手当

9450

管理職手当

86778

時間外手当

43358(当直費含む)

特勤手当

88000(いわゆる医師手当)

 

 

 

 

 

 

収入計

793096

 

 いかがでしょうか。え、「名ばかりの部長」ですって。そうですね。^^;
 これでも京大の医局で同期の連中から比べると平均より少し上のクラスでしょう。いえ、ほとんどみんな公務員ですから、レベルの低い争いですね。

 こんなわけで高校の同総会で他職種の同級生と会うときには、給料の話になると黙って下を向いてしまいます。でもこうしていると、みな医者は高収入という「過去の常識」にとらわれているので、「反感を買われるから黙っているのか」と思ってくれます。結局ありのままに白状しますが、誰も信じません。安月給では友達もなくすのでしょうか。

 しかし、開業医がバカスカ儲けていた時代、公立病院の医者の給料はどうだったのでしょう。まさか下がるということはないので、今の私たちよりも額面は低かったということでしょうね。しかもインフレ時代ですから今よりつらかったのではないかと。それを考えると・・・でもやっぱりうかばれんわっ。

 結局、過去の開業医(一部ということにしておきます)の悪行のおかげで「医者は高収入というジョーシキ」ができてしまい、この伝説をマスコミ(特にTVドラマがいか〜ん)が、アホの一つ覚えのようによく調べもせずに毎日のように吹聴して日本国民の不信感をどんどん増長しているのです。
 薄給で24時間体制で働いて、
高給取りだからガマンせいと言われると、ぼちぼちキレる医者も出てくるのではないかと思いますね。

 これから医療は荒廃の時代を迎えます。このテーマ、一回で終わらせるのはあまりに重いので、これからもたびたび取り上げようと思っております。
 下の本は非常にわかりやすいので、皆様に一読をお薦めします。ちょっと過激なためか読むとかなり疲れますが。

参考資料:「日本の医療を問いなおす」 鈴木 厚 著(ちくま新書)他


 

 

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