医学博士号の話(メディカル憩室その12)

 


 先日、以前いっしょに働いていた医師Tくんが挨拶に来ました。4年前にS大学の大学院に入学し、卒業とともに博士号を受けることになったそうです。医学部の大学院の場合は学位=博士課程(大学院に修士課程はない)ですから、順調なわけです。
 「お菓子を配らなきゃいけないので用意した」と言いますが、そういう習慣があったんですね。
 私の場合、京大の学位授与式の際にはそんなものはなく、卒業式といった感じの式典があり、その後同窓会主催の祝賀会があったのみです。もちろん、アメリカでつきものの「正方形の天布のついたシルクハット」は見かけませんでした。学位と言っても卒業証書とほとんど同じで一枚の紙きれで、ただ書いてある文字が違うだけです。

 医師の場合、大学を出れば学士なわけですが、同時に医師国家試験の受験資格が得られます。これに通れば医師免許がもらえるわけです。
 医学部で教職につくには、最低限この学士であればいいわけです。現実には博士であることが必須条件のことが多いですが、例外もあります。医師免許は教職につくために必須のものではありませんから、医師国家試験に落ちても、医学部の教員という道があります。特に基礎医学系では人間に対する医療行為をすることはまずありませんから、通常はこれでなんの問題もありません。

 さて、「学位」というと医師の場合は学士でも修士でもなく博士をさします。博士号がなくても医師免許さえあれば医師ですし、通常の医療行為をするのに何の制限もありません。教職につくことも可能ですが、ただそこでエラクなろうと思えば、実際のところ博士号は必要のようです(博士課程の大学院生を指導するものが持っていないとかっこ悪い?)。
 いい医者であるのと医学博士であることはほんとうは関係ないんですが。

 さて、日本では教職以外の医師が大多数なわけですが、結構みんな博士号を持っているものです。大きな病院では、部長とかになるのに博士号を持っていることが必須という内規を作っているところもありますが、学位の内容(どういう研究か)を問わないので、あまり意味がないと思います。
 なぜなら、通常の仕事とはあまり関係のない分野の研究で取っている人が多いからです。例をあげますと、ネズミの特殊な酵素や遺伝子のある一部分に対してある操作を加えたら、ある条件下での細胞の増殖の速度が少し変わったとかいうことで、外科医や内科医が学位を取ってたりします。これが彼を部長にするかどうかにどう関係するのか私にはわかりません(それなら人柄とかをもっと重要視せいよ、とか言ったりして)。
 普通の私立病院などでは別に博士号を取っていなくても(取っても)給料や出世に関係ありません。

 ある本に「医師にとって博士号とは足の裏の飯粒のようなものだ」と書いてあります。
 そのココロは
「取っても食えない、でも取らなければ気持ちが悪い」とのことです。
 言いえて妙、であります。


 

 

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