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<第五夜>シーモンキーの話について

 

シーモンキーって知っていますか



1997年4月24日


 シーモンキーってご存じですか? ぼくら30歳後半の者はほろ苦い思い出として結構知っている者が多いのですが、これは「謎(?)の水棲生物」の一種であります。

 昔、少年漫画誌の裏表紙の裏に出ていた通販の広告で、目のクリクリとしたとてもアヤシいがどこかかわいい小さなトカゲのイラストがあり、誇らしげにシーモンキーと書いてあったのです。そいつはケースの縁から顔を出し、身を乗り出して笑っていました。そのころの男の子はみんなこれを「飼いたい!」と思ったものでした。
 母親に「気持ち悪いからやめて〜」と言われつつも 300-400円程度の額を郵便局から送金したところ、送られてきたのは小さなマギーブイヨンのようなプラステッィクケースの中に袋が二つ。そして怪しき説明書。袋は一つが「海の素」、そしてもう一つがケシの実よりもさらに小さな赤褐色の粉にしか見えない、「これぞ本邦初公開、世紀の秘宝館」的神秘のお宝「シーモンキーの卵」でした。大きく育てて手に乗せて持ち歩くぞ〜と豪語していたぼくの心に、かすかに浮かんだ猜疑心。よく見るとケースには「ブラインシュリンプ」の文字が・・・。ぶ・ら・い・ん・しゅ・り・ん・ぷ・・・???
 もちろんそれらが入っていた箱には例のかわいいイラストが描いてある(今から思うとポンキッキーズのガチャピンに大きな口をつけたようだったなぁ)のです。なんとなく、くじけそうになる心をそのガチャピン君のイラストにはげまされ、早速汲んでおいた水をケースに入れ、「海の素」と「卵」を半分入れました。次の日、何にも起こらない。ただの塩水です。ますます深まる猜疑心。だまされたのか? いや24時間はかかるらしいよと、背中にささる母親と弟の好奇の目に軽くカウンタージャブを合わせておいてから、男はだまってサッポロビール、いやもとい(フルイ)、無言でその日はそのまま寝ました。その日は暑い夜でしたので、夜中に寝苦しさに目を覚まされたボクは、トイレの帰りになにげなく玄関の下駄箱の上に乗せておいたケースを覗きこみました。最初は暗くてわからなかったのですが、玄関のガラス越しに差し込んでくる外灯の光で透過したケースの中には、数十匹の白っぽい毛羽立ったものが繊毛を動かしながら泳いでいるではありませんか。ボウフラではないかとも思いましたが、それがシーモンキーとの最初のご対面だったのでした。0.5-1mm ほどのそれははっきり言ってミジンコの親戚のようなものに見えましたが、とにかく生まれたのです。
 そうして次の日から爆発的に数を増していった「海の猿」は、やはり大量に死滅していき、ある日をピークにだんだんと数が減ってきました。そして体長 5mm を超えるころのこと、ついにそれが小さな「エビ」であることがボクの小さな脳みそにもわかってきました。いえ、なに、単に友人の一人が「シュリンプってエビのことやってお父さんがゆうてたで」とのたまっただけなんですが。その言葉にがつんと頭を殴られたボクは母親にそう言うと、「ほら、やっぱりだまされとったやん」。弟もしたり顔で「にいちゃん、あほか」。
 次の日学校の図書館で調べたところ、英語名「ブラインシュリンプ」、学名「アルテミア・サリーナ」。サリーナというのは saline のことで塩水ですね。英語読みならサリンですがあの毒ガスのことではありません。このケシの実のような卵はそれの「耐久卵」だそうで、アメリカのソルトレークあたりで採取され、熱帯魚の餌として使われるとのこと。湖が干上がったりする前に産卵し、その卵は次の雨季まで生き延びて塩水に漬かると孵化するというおもしろい性質を持っています。耐久卵は何年も生き延びるそうなので、残った卵はタイムカプセルに入れようとした(あるいはほんとうに入れたのだったか記憶が定かでありません)者もいました。あれ結局どうなったんだっけ。
 とにかく常温で腐らないというのは生餌としては理想的ということで、昔から熱帯魚などの餌に使われていたものらしいのです。金持ちの友人が早速ペットショップで1ケース買ってきました。中を見てびっくり。500円くらいで我々の買った卵の軽く100倍を超える量のあの卵がぎっしり入っているのです。そのケースの説明では、孵化させた後は光を当てると寄ってくるのでスポイトで吸い取って熱帯魚の水槽に入れるとよいと書いてありました。こうした上等の餌を与えると魚の発色がよくなるらしいです。熱帯魚も飼っていないくせにその餌なんかをせっせと繁殖させていたボクっていったい・・・ うう、これではまるで「ちびまるこ」の世界ではないか。
 結局最後は水替えに飽いて、二匹残った1cmほどの巨大なやつをメダカに与えました。あっというまにパクついたメダカでしたが、いかんせんメダカですので色がよくなったかどうかわかりませんでした。それにしても長い間飼ったわりにはあまり愛着が湧いてこない変な動物でした。だから餌にされるのでしょうけどね。

 ところで思感心するのは、これを「シーモンキー」と名付けて、安くて仕入れた卵を小分けにして、無知な小学生に大量に売り捌いたやつの賢さです。あのバタ臭いイラストは今から考えるとどうもアメコミ調でしたから、おおもとはアメリカ人が始めたのでしょう。それを日本の業者が輸入したものと思います。やっぱり商売はアイディアですね。いったいいくら儲けたのでしょう。まさにエビで大金(タイきん)を釣るってやつでしょうか。
 しかし許せないのはそのものすごいネーミングセンスです。エビの幼生のようなプランクトンもどきを「モンキー」。「サル」ですよ、「サル」。いったい・ど・こ・か・ら・あぁぁぁ??? 「トカゲ」や「エビ」のままならきっと総ての母親が飼うのを許さないという判断で名づけたのでしょうが、サルもさぞかし気を悪くしたでしょう。現代なら消費者の強い味方のジャロがありますので、100%の誇大広告として訴訟ざたでしょうね、きっと。

 ちなみにこの前の日曜日、ゲーセンのUFOキャッチャーで「アルテミア飼育キット」をゲットしてきました。うちの子供に、これはな、昔シーモンキーと言ってなぁ、と講釈をたれましたが、箱の絵はどこから見ても「エビ」モドキですので、「どこがサルや〜」と言って子供がちっとも信用しません。別に親たるボクの普段の行いが悪いからではありません、きっと。やっぱりジャロでせいで昔の名前では出られないのでしょう。
 早速帰宅してから孵化させましたが、やっぱりうじゃうじゃ発生しました。うぅ懐かしいゾ。そして大量のふやけた死骸が底に溜まり始めました。水替えのときにスポイトでかき混ぜると、「深海に降るマリンスノー」の趣が味わえます。また病みつきになるかもしれない、と思いながらも、これを食べてくれる金魚か熱帯魚の購入計画を密かに練り始めたボクっていったい・・・ おぉっいかん、また「ちびまるこ」の世界だ。最後だからはかっこよく決めねば。

 アルテミア星系第三惑星サリーナ。エビにも小さな魂がある。泣くな鉄郎。
 いま万感の想いを込めて 汽笛がなる・・・
             「銀河鉄道999」より え、関係ないって?


◆後日談その1◆
昨日ペットショップで見たところ、2780円で売っていたブラインシュリンプエッグには2500〜2800万個の卵が入っているそうです。
1万個=たったの1円。ヒエエ。

◆後日談その2◆
アメリカにお住まいの神尾宏光さんの言では
「アメリカでも何年か前に流行したそうです。探した結果ついにシーモンキー飼育セットを発見。$6でした。sea-monkey と書いてありますのでアメリカでもシーモンキーで通用するようです。また未確認ながらシーモンキービタミン、シーモンキーTシャツなども通販で買えるようです」
ということです。Tシャツ? あのトカゲのイラストでしょうか。

◆後日談その3◆
またまたアメリカにお住まいの神尾宏光さんからの最新情報です。
「シーモンキーセットははっきり言って笑えます。外装紙には”the amazing live, ocean-zoo, absolutely guaranteed grow!”など派手な言葉が並び、人のカタチをした河童みたいなシーモンキー家族が載っていています。
母親シーモンキーはネックレスを、
子供シーモンキーはおむつをしています(海の中で)。
 中には”official sea-monkey handbook”(公認シーモンキー手帳?)なる物が入っており、その目次は以下のようなもの。
 ・シーモンキーの経歴(昔アニメをやっていたようなことも書いてあります)
 ・教育上非常によろしいこと
 ・犬、猫のように調教は出来ないこと(それならはじめから書くなといいたい)
 ・光に集まること
 ・シーモンキーは野球が出来ること(!?)
 ・アメリカでは特許を取ってあること
 ・死んだシーモンキーを生き返らせる方法
 ・オス、メスの見分け方(要するにメスの方が大きい等)
 ・シーモンキーは紳士、淑女なので共食いはしないこと
 ・ご存じTシャツ、ビタミン、薬、シーモンキーレーシングゲーム等が売られていること
まったくアメイジングなアメリカンシーモンキーです」
ということです。神尾さん、ナイス(死語?)な情報ありがとうございました。
 

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