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<第二十八夜>勝手はいけねぇについて

 

勝手はいけねぇ




1999年10月31日


 いえね、あっしも字違いだってことはよくわかっているんでさぁ。

 てことで「買ってはいけない」の話です。ああ、またか、とおっしゃる方も多いですが、私もウンザリしているので一度とりあげてボヤいてやろかと思い、ペンを執りました。

 今年の夏ごろだったでしょうか。全国の書店に平積みで「買ってはいけない」が出たのは。買ってはいけないと書いてあるので買わずに立読みしたのですが、数ページ読んだところで、「なるほど面白い! 買ってもいいかな」と思ったのですが、裏表紙の定価と表紙のタイトルを見て、やっぱり立読みだけにしようと思いました。

 最初は面白かったのですが、医薬品の項に入りますと、ん、ちょっと待てよ、という気になりました。主張がヘンです。偏っています。見方を変えると当たり前のことをオオゲサに言っているだけのようにも思えます。薬は私の専門分野になるわけですが、人間は専門のことになると基準が厳しくなります。ということは裏返せば、専門分野でないことにはえらく鷹揚なわけで、これまでのページに対する自分の態度がそうだったのではないか、今までの主張も実はヘンだったのではないかという気がしました。

 新聞について考えてみましょう。自分の専門分野のことはよくわかるので新聞はよくウソ書いてやがると気がつくわけですが、別の分野の記事ではそのミチの専門家がやはりウソ書いてやがると思っているのではないかと思います。結局新聞は全部の分野でウソを書いているわけですね。全部がウソではないのですが、少しずつウソが混じっている。そして専門家以外にはどの部分がウソなのかわからないわけです。昔から「千三つ」という言葉があり、巨人の填原に似た売れないコメディアンの「せんだみつお」さんもこれから命名したわけですが、「千に三つだけウソが混じっている状態が一番始末が悪い」ことを意味します。一流のペテン師も最初は真実を重ねて信用させて最後の最後にウソをついてだますわけです。新聞は「千に三十」くらいだと思いますが、新聞以外のマスコミってもっとひどいですね。あ、スポーツ新聞は新聞には入れません、念のため。

 で、「買ってはいけない」ですが、早速「買ってはいけないは買ってはいけない」とか「買ってはいけないは嘘である」などの批判本が出ました。これらの方が論拠がしっかりしているように思えます。わが国には以前から「あぶない食品」(溝口敦 小学館文庫)などの優れた啓蒙書があります。「あぶない食品」は作家の方が書いているので読み物としても優れていますし、ユーモアがあふれており「買ってはいけない」などの殺伐とした雰囲気がありません。推薦します。

 さあ、この「買ってはいけない」騒動、週刊誌などが煽っていますが、いったいどうなることやら。「買ってはいけない」と「買ってはいけないは買ってはいけない」などの反対派とに別れて戦うのか、「買ってはいけない」と「買ってはいけないは買ってはいけない」とまた別の立場が出てくるのか、興味のあるところです。別の立場というのはたとえば、「買ってはいけない」と「買ってはいけないは買ってはいけない」とをアウフヘーベンしてさらに大局的に見た立場で、彼らは「買ってはいけないと買ってはいけないは買ってはいけないとは買ってはいけない」という本を書くでしょう、たぶん。さらに別の立場の人が「買ってはいけないと買ってはいけないは買ってはいけないと買ってはいけないと買ってはいけないは買ってはいけないとは買ってはいけないとは買ってはいけない」を書き、さらに別の立場の人が「買ってはいけないと買ってはいけないは買ってはいけないと買ってはいけないと買ってはいけないは買ってはいけないとは買ってはいけないと買ってはいけないと買ってはいけないは買ってはいけないと買ってはいけないと買ってはいけないは買ってはいけないとは買ってはいけないとは買ってはいけないとは買ってはいけない」を書き、さらに別の立場の人が・・・ というふうに物事は偽フィボナッチ数列のようにえんえんとエスカレートし・・・ ・・・ 止揚ガナイジャネエカ。アア、サイゴマデ字違イ。
 

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