復活!メディカル憩室

点滴ばあちゃんの話(メディカル憩室その14)

 どこの病院にも1人や千人くらいいると思いますが、今日は「点滴ばあちゃん」の話です。

 

 そう、病院に夜中にやってきては「先生、点滴してぇな」 と点滴するまで帰らない、あの一群のオヒトのことです。

 

 あ、女性とは限りませんが、男はなぜか少ないのでここでは便宜上「ばあちゃん」と呼びます。どういった説明にも決して納得せず、200〜500ml の点滴をしないとゼェッタイーニー帰りません。

 

 一般的に点滴ボトルには大きいのと小さいのがあり、大きいのが 500ml、小さいのが 100〜250mlのことが多いのです。
 カロリーは中に含まれる糖の量によりますが、糖の濃度はだいたい5%までのことが多いので、大きいのでせいぜい 100カロリー、小さいので 50カロリーまでです。
 あ、ただの生理的食塩水は全くのノンカロリーです。
 それにしてもたったの 100Cal です。病院に来るのにいったい何カロリー消費しているのでしょうか。差し引きすると残りわずかじゃないですかね。

 

 最近は保険機構が経口摂取のできない場合にしかビタミン剤の添加を認めなくなっていますので、こうした方には無添加で、つまりボトルそのままを使用します。
 大きなボトルで水分 500ml+カロリー 100Cal、その他の成分といっても血漿と同等度のミネラル分ですから、ポカリスエットのほうがよほど安くてウマイのです。それに痛くない。

 

 点滴ばあちゃんは点滴が始まったとたんに、けわしかった顔つきがやさしくなり、半分(250ml+50Cal)くらい入ったところでこちらが話しかけると、

 

「ありがとうございます、すごく楽になりました」

 

と、のたまわれます。

 

 思わず、「あんた、そりゃほとんどただの水でっせ」と言いたくなるのですが。

 

 そもそも点滴とは水もとれないほどの状態、あるいは水を摂っても吐いたり下痢したりで腸管から吸収されない場合に使用されるべきものです。
 例外として急に注射するとヤバイ薬を体内に入れるときに、薄めて毒性を低め、途中で何か起きてもすぐに投与をやめられるよう、一気に注射せずに点滴するケースがありますが。

 

 点滴ばあちゃんが医学的に「水分もとれないし食事も喉を通らない」というケースかというとそんなことはまれで、もともとカサカサではあるものの補正しなくてはならない「脱水」の兆候などまずありませんし、この「500ml+100Cal」がないと生きていけないせっぱつまった状況ともとても思えません。
 もし、そんな状況なら即座に入院しなければいけませんが、よく診察してもどこが悪いのかさっぱりわからないことが多いのです。
 訴えも不定愁訴や原因不明の胸部不快感ですし。
 どこから見てもただの健康体?いや「点滴依存症」いや「病院依存症」です。

 

 こうした「ばあちゃん」は息子夫婦と同居しているケースが多く、嫁と折り合いの悪い方が多いような気がします。
 つまり、息子の気を引くのと、それにより嫁の罪悪感をあおらせるのが目的(本人は自覚していないことも多い)じゃないかと思うのです。

 

 点滴せずに帰ると家族から「ほ〜ら大したことないやん」と冷たい目を浴びせられますから、点滴しないで帰ることはアリエナイことなのです。

 

 ばあちゃんにとっては何が何でも、家族に迷惑をかけて、夜の一番嫌がられる時間帯に病院に連れていってもらわなくてはいけないのです。点滴も必ずしてもらわないといけないのです。
 でも本当のところは帰ってから夜中にトイレに何回も起きるはめになると寝られられなくなるので、あまり大きなビンは困るのです。できれば小さなビンを(点滴中に一眠りしたいので)ゆっくり落としてもらいたいのです。
 ま、つまりは嫁を困らせたいのです、それも毎晩。

 

あ〜、困ったもんだ。

 

 これを読まれてうちのばあさんがアテハマルと思われた方、怒っちゃダメです。
 それよりももう少しばあちゃんを大事に扱ってあげることです。

 

 十分満足してたら、ヨメの恐い顔を布団の中で思い出して眠れなくてムネが苦しくなって病院に行きたくなることもないですよ。

 

 ばあちゃんだってほんとうは病院なんか行かずに夜はゆっくり寝ていたいですからねぇ。たぶん・・・