急性精神病(メディカル憩室その16)
糖尿病の患者で低血糖発作を起こすといろいろな精神症状が出たりします。
急に暴れ出したりすることもあるわけですが、糖尿でなくて精神病(特に分裂病など)も急激に発症することがあります。
これは遠い昔に大津とは別の都市で起こった実話(某精神科医から聞きました)ですが、某大学病院の麻酔科のある医師が小さな市中病院に当直に行ったそうです。
いわゆるバイトですが、そこに急に発狂したという触れ込みで若い男性が運びこまれてきました。
ここで通常の医師なら精神安定剤を使用してとりあえず鎮静させて、血糖を調べて低血糖でなければメージャートランキライザーなどを使用して急場をしのいだことでしょうが、なんとその麻酔科医は精神安定剤でおとなしくさせた後、気管にチューブを挿管して手術で使う麻酔器に患者をつないでしまいました。患者はうまく眠りつづけたらしいです(そりゃそうだ)が、眠りが浅くなると暴れていたといいます。
次の朝、その医師は次(1週間後)に来るまで麻酔器につないでおいてと言ったまま帰ってしまったそうです。
つまり、急性精神病であることを除くとどこも体は悪くはない患者が1週間も挿管されたまま麻酔をかけられていたことになるのです。
手術でよく麻酔事故が起きて問題になります。長くてもせいぜい12時間以内の一般の手術でさえ不慮の事故がよく起きるわけですが、この患者はなんと7日間も繋がれたまま。
当然挿管されていますので喉頭浮腫が心配です。
これが生じるとうかつに抜管すると窒息が起きるために、最終的には気管切開(ノドの下のほうに穴を開ける)をしなくてはなりません。
ということでどんどん患者に侵襲が加えられていくわけです。
このような患者に麻酔を7日も継続する必要があるのでしょうか。
まして6日間はこの麻酔医がいなくてほったらかしになる可能性が高いわけです。
次の日も別の麻酔科医が当直したのでしょうか。
そうだとしても一晩限りの別の当直医が、このトラブルの種をたくさん抱えた患者の抜管などという手間がかかることを行ったとは思えませんね。
この医師が7日後にどうしたかは聞いていません。
患者が実際はどうなったかわかりませんが、最悪の場合は麻酔器につなぎっぱなしになり、離脱できないままお亡くなりになったという可能性もあるわけです。
このように医師は自分の得意ワザを適応でない場合に発揮したりすることがあるのです。
特に当直など自分以外に医者がいない場合には、しかたなく行う確率が高くなると思います。
たまたまこのケースは患者と医者とが最悪の組み合わせであったと思われますが、精神病は 100人に1〜3人がかかっている病気です。
自分がある日突然急性発症する可能性がないとも限らないので、恐い話ではあります。