「漢字廃止」で韓国に何が起きたか / 呉 善花
公開日:
:
最終更新日:2020/06/06
読書
★★★☆☆
呉善花(オ・ソンファ)さんの本。
韓国での漢字廃止が引き起こした悲惨な影響を解説しています。
そこも面白かったのですが、「漢字導入」で日本語に何が起きたかということを教えてくれたことが大きかったです。
*
オ・ソンファさん自身は小学校4、5年で漢字を教わったものの小学校6年から漢字が廃止されたため、その後の看護師時代や従軍中などは漢字を全く使わなかったそうで、忘れてしまっていたとか。
日本の大学に留学し、漢字をおぼえて、初めて漢字の効用と日本ならではの活用を知ったそうです。
日本語は朝鮮語の文法に和語をあてはめたピジン言語から発達したものと言われていますが、それに漢字を導入し、ひらがなとカタカナを発明し、本家チャイナよりも改良してしまったのです。
漢字はシナでは時代や地域によって読みは違いますが、その時代のその地域では読みは1つです。韓国でも同じだったそうで、日本語のように漢字に音読みと訓読みが存在し、しかもそれぞれが複数あることが多いのはほかにはない特徴だそうです。
ここだけでも結構驚いたのですが、オ・ソンファさんの指摘で鋭いのは、日本は訓読みを発明したことによって漢字と漢字の組み合わせで新しい漢語を作るのが容易になったという点です。そうして作られた和製漢語が明治時代のシナに逆輸入されたりしていますね。
訓読みが漢字と漢字の意味的結合を強化したということです。
たとえば、水防ということばは日本人は「みずをフセぐ」とも読めるので、見ただけで意味を直感的につかめます。
防は漢字ですが、訓読みの「ふせ(ぐ)」は和語から来ているわけです。
防(ボウ)という漢字を、「防ぐ」と送り仮名をして「ふせぐ」と読むことにより、防の漢字の意味はふせぐという意味と深く記憶に刷り込まれます。
英語の defend という言葉はディフェンドとカタカナをあてることはできますが、知らなければ「防ぐ」という意味だと気づくことはできません。日常会話で「ディフェンドする」と頻用している人(スポーツマン?)以外は。
つまり、漢字という外来語と従来から日常的に使っている和語(やまとことば)を訓読みの発明によって有機的に結合したのです。
中国人や昔の李氏朝鮮人は「水防」は水と防というそれぞれの漢字がたまたま文章で出会っているという認識で、前後の文章も見てからどうもこの二文字は関連が深いようだ、意味はなんだろう・・・と推定する、あるいは先人の書いた例を探すということになるようです。
つまり、
- 漢字に対して複数の読みをあてることを許す
- 訓読みを発明し、漢字の意味を和語で表現する(漢字と和語の意味的結合)
- 漢字と別の漢字とを組み合わせて新しい漢語を自由に作れる
というのが、漢字を取り入れてそれに発明的改良を加えた日本語の稀有な特徴とか。チャイナ、朝鮮、ベトナムにはないものです。
そういうふうに深く考えてなかったので、目からウロコがたくさん落ちたのでした。
*
日本語のすごさを韓国出身の人(現在は日本に帰化ずみ)に教えていただくという点でもなかなか興味深い本です。
オ・ソンファさんは他の本でも日本の歴史や日本の伝統、文化などを独自の視点と深い考察で我々に教えてくれています。
日本人に当たり前のことは我々はなかなかわからない(だからチコちゃんに叱られる)ので、彼女の本はできたら全部読もうと思っています。
###
###
関連記事
-
-
スーパーサクセス / 万代 恒雄
スーパーサクセス (グッドライフ・ブックス) 万代 恒雄 日本地域社会研究所
-
-
医療崩壊の真犯人 / 村上正泰
★★★☆☆ 最近のアレ(新コロ)で「医療崩壊」という言葉をよく耳にするので、本棚になっ
-
-
中国の民話 / 村山 孚
中国の民話 (徳間文庫) 村山 孚 徳間書店 1989-01 売り上げランキン
-
-
魏志倭人伝の描写は信用できない
日本史の誕生 (ちくま文庫) &nb
-
-
ひと駅の間に一流になる / 中谷 彰宏
ひと駅の間に一流になる ひと駅の間に一流になる (PHP文庫) 中谷 彰宏
-
-
偽善の医療 / 里見 清一
偽善の医療 (新潮新書) 里見 清一 新潮社 2009-03 売り上げランキン
-
-
幻の剣鬼 七番勝負 / 柴田 錬三郎 ほか
幻の剣鬼 七番勝負 (PHP文庫) 柴田 錬三郎 PHP研究所 2008
-
-
呪いと祟りの日本古代史 / 関 裕二
呪いと祟りの日本古代史―常識を覆す驚くべき「裏」の歴史 関 裕二 東京
-
-
中国を永久に黙らせる100問100答 / 渡部 昇一
中国を永久に黙らせる100問100答 (WAC BUNKO) 渡部 昇一 ワ
-
-
ビジネスを制する超ノート活用術 / 河合正義
★★★☆☆(網羅的) いろいろなノートの設計、運用について、とにかく網羅的に書かれており、