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楽して得た富は国を滅ぼすのか──「豊かさの呪い」を考える

公開日: : 未分類

今日はマジな話をしてみます。


石油が湧き、金銀が流れ込む。そんな国はさぞ豊かになるだろう、と普通は考えます。ところが歴史を振り返ると、思いがけない大金を手にした国ほど、かえって内側から弱っていく例が少なくありません。

経済学ではこれを「資源の呪い」、あるいは「豊かさの呪い」と呼びます。今回は、この逆説がなぜ起きるのかを、歴史の実例と経済学の考え方から整理してみたいと思います。

「豊かさの呪い」はどう働くのか

呪いの経路は大きく二つあります。政治の腐敗と、経済構造のゆがみです。

政治が国民を必要としなくなる

資源の利益が政府や権力者に直接入ると、国民から税金を集める必要が薄れます。税を払わない国民は政府に説明を求めにくく、政府も国民を育てる動機を失います。富は権力の維持に使われ、教育や産業の育成は後回しになりがちです。

「オランダ病」──通貨高が他の産業を枯らす

資源の輸出で外貨が大量に入ると、自国通貨の価値が上がります。すると国内で真面目に作られた製品は、海外から見て割高になり、売れなくなります。

この現象は「オランダ病」と呼ばれます。1960年代にオランダで大規模な天然ガス田が見つかった後、製造業が競争力を失ったことに由来する名前です。資源ブームが続く間は目立ちませんが、ブームが去ったとき、育つはずだった産業がすでに痩せ細っていることに気づくのです。

歴史に見る三つの帝国

16世紀のスペイン──新大陸の銀に頼った国

スペインは新大陸から莫大な銀を手に入れました。しかしその銀で外国の品物を買うことに慣れ、国内の産業はあまり育ちませんでした。銀の流入は物価の高騰も招き、国内製品の競争力をさらに削ぎました。銀の流れが細ったとき、残ったのは自力で稼ぐ力の弱い経済でした。

大英帝国──工場から金融へ

産業革命で「世界の工場」となったイギリスは、19世紀後半から海外投資で稼ぐ金融大国へと性格を変えていきます。工場で物を作るより金融のほうが儲かるとなれば、優秀な人材もそちらへ流れます。ドイツやアメリカに工業の主役の座を譲っていった背景には、こうした事情もあったと指摘されています。

古代ローマ──「パンとサーカス」

征服地から安い穀物と奴隷が流れ込むと、自作農は太刀打ちできずに疲弊しました。都市にあふれた市民の不満を抑えるため、為政者は無料の穀物と見世物をふるまいます。詩人ユウェナリスはこれを「パンとサーカス」と皮肉りました。帝国の衰退には多くの要因がありますが、市民が政治への関心を失っていったことも、その一つに数えられます。

経済学・社会学が示す五つの視点

この逆説は、さまざまな分野の研究者が別々の角度から論じてきました。

  1. リチャード・アウティの「資源の呪い」 イギリスの経済地理学者アウティは1990年代に「資源の呪い」という言葉を広めました。資源に恵まれた国が、そうでない国より成長で見劣りしがちなことを示し、教育や技術への投資が後回しになる危うさを論じています。
  2. ポール・クルーグマンのオランダ病モデル クルーグマンは、製造業が「やりながら学ぶ」ことで技術を蓄える点に注目しました。通貨高で製造業がいったん縮むと、その学習が途切れ、資源ブームが去った後も競争力が戻りにくいことを理論的に示しています。
  3. 「金融が大きすぎる」問題 国際決済銀行(BIS)などの研究では、金融部門がある規模を超えると、かえって経済成長の足を引っ張るという結果が報告されています。優秀な人材が実業から金融へ吸い寄せられることが、理由の一つに挙げられています。
  4. ヘレナ・ノーバーグ=ホッジの「ラダック」 インド北部ラダック地方を長年見つめた彼女は、著書『懐かしい未来』で、外からの貨幣経済の流入によって、助け合いを基盤にした伝統的な共同体が揺らいでいく姿を描きました。
  5. 行動経済学の「ハウスマネー効果」 苦労せずに得たお金は、自分で稼いだお金より気軽に使われ、リスクの高い使い方をされやすいという傾向です。個人の心理として知られるこの傾向は、国家の財政にも重ねて考えることができます。

いずれも「必ずそうなる」という証明ではありません。それでも、努力を飛ばして手に入れた富が、国の体力をじわじわ奪いうることを、それぞれの角度から示しています。

社会に何が起きるのか

働くことの意味が薄れる

極端な思考実験をしてみます。もし国民全員に、働かなくても暮らせるだけのお金が配られたらどうなるでしょう。きつい仕事や現場の仕事を引き受ける人が減り、国内で作られる物が減ります。輸入に頼れば頼るほど物価は上がり、最悪の場合はインフレが止まらなくなります。

お金はそれ自体が価値を生むわけではありません。お金で買えるものの裏には、必ず誰かの労働があります。

中間層が消え、社会が二つに割れる

「金融やITで効率よく稼ぐのが賢いやり方だ」という意見もあるでしょう。ただ、そうした産業は大きな富を生む一方で、多くの人を雇う必要がありません。工場や現場で生まれていた安定した仕事が減ると、中間層が細り、ひと握りの富裕層とそれ以外とに社会が分かれていきます。

個人にも同じことが言える

これは国だけの話ではありません。思いがけない大金を手にした人が、努力や我慢の意味を見失い、仕事を通じた人とのつながりを失っていく話はよく耳にします。楽なお金が尽きたとき、自分で稼ぐ力が衰えていれば、手元には何も残りません。

日本の場合はどうだろうか

日本には、石油のような目立った資源がほとんどありません。だからこそ、人を育て、技術を磨き、物を作って売るしかなかった。戦後の日本が「物作りの国」として成長したことは、楽に得た富がないことがかえって強みになった一例ではないか、と私は考えています。実際、日本や韓国、台湾のように資源に乏しい国が急成長したことは、資源の呪いの裏返しとして経済学でもよく取り上げられます。

もう一つ思うのは季節のことです。日本では暖かい季節のうちに冬への備えをしなければ、厳しい季節を越せませんでした。米作りも、一年の段取りを先まで見通して進める仕事です。こうした暮らしが、勤勉さや計画性を育ててきた面もあるのではないでしょうか。もちろん四季のある国は日本だけではありませんし、教育や制度の力も大きいので、これはあくまで一つの見方です。

ただ、日本も呪いと無縁だったわけではありません。戦国から江戸初期にかけて、日本は石見銀山などの銀を大量に輸出する世界有数の銀産出国でした。そして1980年代後半のバブル期には、土地や株で「楽に」お金が増える空気が社会を覆い、その後の長い停滞につながりました。楽な富が日本を素通りしたのではなく、日本もそれを経験し、痛い目を見てきたと言えそうです。

おわりに──本当の豊かさとは

ここまでの話を短くまとめると、次のようになります。

  • 楽に得た富は自国通貨を押し上げ、ほかの産業を弱らせる
  • 物作りを手放し、金融に頼った帝国は力を失っていった
  • 豊かさは、困難を乗り越える基礎体力を奪うことがある
  • 金融化は中間層を細らせ、社会を分断しかねない
  • 見世物とばらまきに頼る社会は、内側から緩んでいく

もちろん、資源に恵まれながら上手に発展した国もあります。ノルウェーは石油の利益を政府系ファンドに積み立て、将来世代に回す仕組みを作りました。呪いは運命ではなく、富の使い方しだいだということでしょう。

それでも、社会が物作りを軽んじ、不労所得ばかりをもてはやすようになったら、それは黄信号だと思います。本当の豊かさは、手にしたお金の額よりも、困難に向き合って何かを生み出していく働きの中にある。汗を流して働くことの値打ちを忘れないことが、豊かさの呪いに対するいちばんの備えなのかもしれません。


余談になります

日本のように 資源がなく国民からの稼ぎが主な収入源である国家(政府)が、それを二重の意味で打ち消すようなベーシックインカムを行うのは自殺行為だと私は考えています。

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